神林 尚子(かんばやし なおこ)
プロフィール
近世(江戸時代)の文学、特に江戸の地で出版された絵入り小説(草双紙)が専門です。個人的な研究テーマとしては、一つの題材が複数のジャンルにわたってどのように脚色されて展開していくか、具体的な作品に即して考察しています。
近世には、小説や演劇、落語などの話芸なども含め、ジャンルを超えて一つの題材が扱われる例が多くみられます。いわばメディアミックスが盛んに行われていた状況を踏まえ、ジャンルを超えて題材の展開を辿ることを目指しています。
扱う時代としては、江戸時代の後期から明治の初期にかけて、近世から近代への過渡期を中心的な対象としています。従来の研究の区分では、近世(古典)と近代を分けて論じられることが一般的になっていましたが、明治初期の文学や演劇には、近世との連続性も多く見出されます。幕府の瓦解という政治的な転換期を経て、書物・文学や芸能の世界では何が継承され、何が変化していったか、という問題にも取り組みたいと考えています。
主な著書・論文
- 『幕末・明治期の巷談と俗文芸――女盗賊・如来の化身・烈女』(花鳥社、2023年)
- 「河竹黙阿弥作『双蝶色成曙』をめぐって ――「お竹大日如来」の歌舞伎化」
(『鶴見大学紀要』59号、2022年3月) - 「黄表紙『敵討女鉢木』小考――「お竹大日如来」安永六年出開帳の戯作化」
(『国文鶴見』56号、2022年3月) - 「三遊亭円朝遺稿・円喬口演『烈婦お不二』――もう一つの「操競女学校」」
(『国文鶴見』55号、2021年3月) - 「地方伝承としての「烈女伝」――「烈女ふじ」と飯田の郷土史」
(『歴史評論』848号、2020年12月) - 「式亭三馬作『於竹大日忠孝鏡』をめぐって――文化期の三馬合巻とその典拠」
(『国語国文』88-3号、2019年3月) - 「明治期の「烈女伝」の一端――「烈女ふじ」を題材として」
(『国語と国文学』96-1号、2019年1月) - 「江戸文芸は生き残ったか――草双紙の描く明治」」
(矢内賢二編『明治、このフシギな時代3』新典社、2018年12月) - 「烈女ふじ」像の生成――幕末・明治期の文芸にみる風聞の流布と成長」
(『国語国文』第81巻6号、2012年6月) - 「「鬼神のお松」の起源と変容――歌舞伎における脚色を中心に」
(『近世文芸』88号、2008年7月)
ゼミの紹介
教員から
近世文学(明治初期の文学を含む)を研究対象として卒論を書く人たちのゼミです。井原西鶴の浮世草子や、曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』などの長編読本、鶴屋南北の歌舞伎など、時代もジャンルも様々な関心を持つゼミ生の方々が集まっています。
卒論ゼミでは、3年次から2年間にわたり、作品を丁寧に読み解くための訓練を積み重ねます。それぞれの興味や関心に応じて、まずは近世の様々な作品に触れ、卒論で取り上げたい作品や作者を探します。続いては、作品を本当に「読む」ために何をすれば良いか、注釈の付け方、文献の探し方や調べ方などの基本的な方法を身につけます。そして、最後には各自の関心に即したテーマを設定して、卒業論文としてまとめ上げることになります。
作品を的確に読み解くためには、まずは何が分からないのか、何をどう調べればよいか、ということを探るのが出発点になります。きちんと作品に向き合い、分からないことを調べて明らかにしていく作業は、大変なこともありますが、大きな達成感と知的な喜びをもたらしてくれます。その探求の道のりを、ゼミ全体で共有していきたいと願っています。
各回のゼミは、受講生がそれぞれの関心に基づいて、今考えたいことや調べていることの報告、あるいは現状で困っていることなどをまとめて発表し、それに対して質問や意見を出し合う形で進めます。4年生は、卒論の仕上げに向けて、集中して自分の論を練り上げていく時期にあたります。また3年生は、4年生の発表を見て学び、議論に参加することを通じて、自身の関心を育てていってほしいと思います。