シン・日本文学科の13人 塩野先生

みなさんこんにちは。まりもまりりんです。

新しいメンバーで新年度を開始した日本文学科ですが、気づけばもう7月も半ばを過ぎ、夏休みも目前です。

今年度はお二人の新しい先生をお迎えしました。前回神林先生にインタビュ―をいたしましたが、今回はもうお一方の新任の先生、塩野加織先生にお話を伺いたいと思います。

塩野先生は、井伏鱒二作品の研究から出発し、戦時下の文学と日本語政策の関わりや、GHQ占領下の検閲出版制度、日本語のかなづかいやルビといった表記と文学表現の関わりについても研究されていらっしゃるそうです。文学作品をとりまく文化的背景だけでなく、社会的・経済的背景を踏まえながら、ことばの様々な働きを明らかにしたいと、幅広い対象を研究されていると教えてくださいました。

さて、それでは聞いてみましょう。

―塩野先生の、大学時代の論文テーマについて教えてください。

森鷗外の「舞姫」について書きました。この小説の発表当時、複数の読者が「悲恋の物語だ」と評価していることに違和感を抱き、なぜそうした読み方が共有されるのかを小説の内部と外部から探ってみようと考えました。調べていく過程で、この時期には官費留学生をめぐる制度変更やそれに関するスキャンダル報道があったことを知り、それらを調べるために当時の新聞雑誌記事や公文書を必死に手繰っていったのは良い思い出です。

―井伏ではなく「舞姫」だったとは…。有名どころを対象になさったのですね。発表当時の評価は「悲恋の物語」と読まれたのですか。そして、そう読まれる社会的背景があったのですね。当時の膨大な資料と格闘するのはさぞ大変だったことでしょう。

―日本文学研究といえど、上代から近現代、日本語学や漢文学もありますが、なぜ近現代文学をお選びになられたのでしょうか。

学部生のときは、実は近現代を選ぶ以前に、まず日本文学を選ぶかどうかでとても迷いました。もともと英文に進もうと思っていて、なかでも言語学に興味があったのではじめはそちらを中心に考えていました。
ですが、並行して受講していた日本文学の授業が上代から現代までどれもとても面白くて刺激的だったんです。身近だと思っていたものの中に、とてつもない深淵と広がりを実感し、日本語で書かれた文学にすっかり魅了されました。なかでも、いまの私たちの社会をかたちづくる様々な制度や環境やことばに直結するものを多く生み出した近代という時代をもっと知りたいとの思いが強かったので、近現代を選びました。

―先生は翻訳研究もされていらっしゃると伺ったので、そういった経緯があったのですね。なるほど!ルーツがわかりました。
「いま」に一番近く影響しているのが近現代、という考え方は確かにそうですね。近現代文学への見方が変わります。

―読書は仕事のためで、なかなかゆっくり楽しんで読む時間は取れないことと思いますが、最近読んだ本で面白かった、学生におすすめの本はありますか?

松田青子さんのエッセイ『自分で名付ける』(集英社、2021)です。エッセイは普段それほど読まないのですが、私自身が「名付ける」必要に迫られていたこともあって手に取ってみると、彼女の小説とはまた違った痛快さがあって面白かったです。名付けること、って警戒して身構えてしまうところがあるのですが、他方で、新しい関係性をつくるユニークな行為でもあって、そのことが軽妙な語り口で綴られています。

―「史上もっとも風通しのいい育児エッセイ」と、書評にありました!おもしろそうですね。本学図書館にも蔵書されていましたので、学生のみなさん、夏休みの読書に一冊、いかがでしょう。

―わたくしまりりんは研究室の机にあるガラス鉢の水中で生息しておりますので、先生方がお話されているのを小耳にはさんだのですが、塩野先生は一回企業にお勤めになられてから、研究者への道を歩まれたそうですね!研究者への道を歩むことにしたきっかけなどあったら教えてください。

きっかけ自体はいくつかあるのですが、いまから振り返ってみると、そもそもの発端は大学4年生のときに取り組んだ卒業論文ですかね。はじめてまとまった論文を書く、そのための準備をしていくプロセスがとにかく楽しくて(とはいえ出来上がった卒論自体は恥ずかしくてまともに読み返せませんが…)、もう少し続けてみたいなと後ろ髪を引かれる思いを抱きつつ就職したという経緯があります。その後は、就職先の企業でしばらく夢中で働いていたので、一旦は自分の中で区切りをつけたつもりだったのですが、文学や研究から離れれば離れるほど徐々に進学への気持ちを再認識するようになり、気づけば、、、こうなっていました。
いま考えれば随分と遠回りをしましたが、企業での勤務経験は、私にとっては進学という選択をするために必要不可欠な時間だったのかもしれません。

―発端は「「舞姫」研究」だったのですね!勉強すること、調べること、自分で言葉にしていくこと、は大変な作業ですが、夢中になると楽しい作業ですもんね。以前のインタビューで久保先生が「「忘れられない」粘着的な執着を捨てられないのなら、やはり研究者になるほかない」とおっしゃっていたことを思い出しました。そういった強い想いがある方が研究者なのだなあ。と感服いたしました。
学生さんの中には、4年で卒業が不可能な方も時々いますが、その学生たちも、プラス一年が無駄ではなく、少し時間はかかっても、「必要な時間だったんだね」と、助手さんたちが送り出しているのを見ます。すべては意味のある大事な経験なのですね。

―先生はいろいろな大学で教えていらっしゃると思いますが、大妻の学生たちの印象についてどうお感じになられていますか?
着任してまだ日が浅いので断片的なことしか言えないのですが、学ぶことに真摯な学生が多いという印象を受けます。授業にも主体的に取り組んでくれるので、こちらも励みになります。一方で、自分の考えを述べることに対しては遠慮がちで奥ゆかしい?様子も多々見受けられるので、学生たちがなるべく意見を出しやすい授業づくりを心がけようと思っています。なにより、縁あってこの学科に進んだ学生たちには、大妻女子大学日本文学科という恵まれた環境を最大限活かしながら楽しんでもらえると嬉しいですね。

―「意見を出しやすい授業づくり」をなさってくださっているとのこと、とてもあたたかい親心を感じます…。ありがとうございます!

―さて、最後に恒例の質問です。休日は、何をしてお過ごしになられますか?
休日ですか(遠い目)...いま一番欲しいものかもしれません。
ふだんの土日は、家事の合間の時間で、平日に手をつけられなかった仕事や授業準備をしています。息抜きは、近場を散歩することと料理をすることですかね。もう少し時間に余裕が出来たら、好きな舞台や寄席を見に行って、ホットヨガで汗を流し、喫茶店で本を読み、美味しいものを食べに出かけ、温泉につかりたいです、、、という夢を見ながらうたた寝する方がもっといいかなぁ。

―日々の忙しさが目に浮かぶような言葉の数々…。お疲れさまです。
先生方は、学校だけでなく、家でも、他大学でも、様々なお仕事を抱えていらっしゃると思うので、大変ですよね。やっと夏休みが目前に迫ってきていますから、お身体に気を付けて、前期を乗り切ってください!

さて、新メンバーを迎えた「日本文学科の13人」いかがでしたでしょうか。

ひとまず先生方の紹介は一巡してしまいましたが、今後まりりんの出番はあるのか⁈

期待してくださる心あたたかな方は、共同研究室助手さんまでお声がけください。

まりりん