シン・日本文学科の13人 神林先生

みなさんこんにちは。
初めましての方もいらっしゃるかと思います。

わたくし、まりもまりりんと申します。
日文・国文共同研究室のテーブルの上で生息しております。

まりもなのですが、水替えの際、うっかり助手さんが割ってしまい、口ができたため、お話するようになりました。仲良くしてください。

さて、だんだんと暑さが増してきた今日この頃。
学生のみなさんも徐々に新しい学校生活・学年に慣れて来た頃でしょう。

皆さんをお迎えした日本文学科の先生方も、今年度、お二人メンバーチェンジがありました。「シン・日本文学科の13人」です!

これから2回にわたって、新しいお二人の先生方をご紹介したいと思います。

今回は、日本近世文学がご専門の神林尚子先生です。
神林先生は、特に江戸の地で出版された絵入り小説(草双紙)がご専門だそうで、一つの題材が複数のジャンルにわたってどのように脚色されて展開していくか、具体的な作品に即して考察なさっていらっしゃるそうです。
小説や演劇、落語などの話芸なども含め、ジャンルを超えて一つの題材が扱われる、いわばメディアミックスが盛んに行われていた状況を踏まえ、ジャンルを超えて題材の展開を辿ることを目指して研究されていると教えてくださいました。

さあ、それでは神林先生にインタビューしていきましょう!

―先生は、大学時代の卒業論文は、どんなテーマでお書きになられましたか?

大学時代の卒論は、仮名垣魯文という幕末・明治期の戯作者について書きました。
仮名垣魯文は、幕末に絵入り小説の作者として多数の作品を書いただけでなく、新しい話題にいちはやく飛びつく、ジャーナリストのような面もあった人物です。明治期には、小新聞(大衆的な読み物記事を載せる新聞)の記者に転身しています。
作品自体が抜群に魅力的!…といったタイプの書き手ではなく、彼が何に目をつけ、どう脚色したか、どのような人々と交流があったか、という点から一つの時代が見えてくる、という面白さがある人ですね。
指導教員の先生から、こういう面白い人物がいるよ、と勧められて、卒論では、魯文の人的交流や、作品の中での自己演出、といったことを中心に書きました。

卒論の出来自体には反省しきりですし(これはもう本当に…)、魯文についても、その後中心的な研究対象として追っているわけではないですが、作者同士の交流と作品との関係や、小説・演劇・話芸などのジャンル間の交渉、幕末・明治という時代などについては、その後も関心を持ち続けていますので、振り返ってみれば、意外に今の研究にもつながっているのかもしれません。

―文学から端を発し、歴史や時代を研究するような発展的な研究で、読みたくなります。「自己演出」!幕末・明治期にもセルフブランディングという概念があったのでしょうか?面白そうですね!

―日本文学の研究は時代分野は上代から近現代など多岐にわたりますが、なぜ近世をお選びになられたのでしょうか?

実は、近世を選ぶまではかなり悩みました。
中古や中世、近代なども含めて、色々な時代の作品に興味がありましたし、文学だけでなく、能(謡曲)や狂言などの芸能にも関心を持っていて、学部時代は時代も分野も様々な授業に顔を出していました。(そういえば、英文学やフランス文学の授業も好きでよく受講していました…)

ただ、文化人類学や民俗学などの授業も含め、色々な授業から刺激を受ける中で、「本を読む」という営み自体を掘り下げてみたい、と思うようになりました。当時は、フランス文学などの分野でも、出版研究やメディア研究、「読者論」などが盛んに行われていたので、その影響もあると思います。
とはいえ、対象とする国としては、やはり日本に一番深い関心があったので、日本の文学の歴史の中で、書物や読書行為をめぐって大きな動きがあったのは、やはり近世(江戸時代)かな、ということで近世を選びました。
こう書いてみると、かなり変則的な選び方かもしれませんね…。もちろん、近世という時代と作品にも、独特の面白さがありますし、まずは作品をきちんと読むことを大切にしたいとも考えています。

―そうでしたか!先生も時代分野を決めるときに悩まれたのですね。学生さんたちも、皆さん悩んで決めています。
日本だけでなく、海外の文学もとても面白いですから、一つに絞るのはなかなか難しいですよね。
現在学んでいる皆さんも、神林先生のように、学科を越えて様々な授業を受けてみることは時代分野決めだけでなく、自分の人生にとって役立つことがありそうですね。

―最近読んだ本で面白かった、学生さんたちにおすすめの本はありますか?

これは色々あって迷うのですが、まず最初に思い浮かんだのは、姉崎等・片山龍峯『クマにあったらどうするか:アイヌ民族最後の狩人 姉崎等』(ちくま文庫、2023年)です。
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480431486/
副題にもあるように、アイヌ民族にルーツを持つ、最後の世代の狩人の話を、アイヌ文化の研究者(元NHKの映像作家)が聞いてまとめた聞き書きの一冊です。キャッチーなタイトルが、むしろある意味では損をしているかも、と思うほど、内容はものすごく壮大でスリリングで、一人で熊を捕り続けてきた狩人ならばこその鋭い観察や知識、山を生き抜く智恵、熊に対する畏敬の念などが詰まっています。
アイヌ民族に伝えられてきた文化や、熊を神として祭る儀礼などの話も貴重ですし、人が自然とどう関わっていけばよいか、という大きなテーマへの重要なヒントもあります。最初から最後まで、とにかく目をみはるような思いでわくわくしながら読みました。『ゴールデン・カムイ』などに興味がある学生さんは、きっと楽しめると思います。

小説では、中島京子『夢見る帝国図書館』(文春文庫、2022年)も面白かったです。
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167918729
ひょんなことから謎めいた年配の女性と知り合いになった「私」による手記と、なんと帝国図書館のモノローグ(!)が交互に綴られる構成で、一人の女性の人生を追いながら、日本初の国立図書館をめぐる大きな史的ドラマも次第に明らかになっていきます。ミステリーのような謎ときの要素もある一方で、日本の近代史の知られざる一面が、「帝国図書館」という切り口から鮮やかに描き出されます。
本が好き、図書館という場が好き、という方にぜひお勧めしたい一冊です。

あとは番外として、漫画ですが、ヤマシタトモコ『違国日記』(祥伝社、2017年~)も!
https://www.shodensha.co.jp/ikokunikki/
今の社会で生きにくさを感じることのある全ての方にお勧めしたいですが、特に女子大学生の皆さんには、響く内容も多いのではないかと思います。

―クマ!これは…。木戸先生が小躍りして喜びそうなタイトルですね。(木戸先生は、クマが好き)
内容は真面目に、アイヌ文化、自然と人の共生。はやりのSDGsではありませんが、これから我々が考えて実践していかなければならないことですね。
『夢見る帝国図書館』の方は、本好き、図書館好きが集まる日本文学科学生にはきっと面白いことでしょう!こちらは本学の図書館に蔵書されていましたので、借りることができますよ!
先生、マンガも読むのですね。『違国日記』。大人気のようですね。「人見知りな小説家と姉の遺児がおくる、年の差同居譚」。掲載雑誌の方では7月号で最終回にたどりつくようです。言葉が美しいお話ですね。一気読みするには良いチャンスかもしれません。

―近世というと、「歌舞伎、文楽」など、古典芸能が思い浮かぶのですが、最近「文楽って何ですか?」という質問が学生さんたちから出てきます。歌舞伎よりも認知度が低いようですが、先生がお考えになられる文楽の魅力を教えてください。

確かに、文楽(人形浄瑠璃)は、歌舞伎よりも一層馴染みがないかもしれませんね。ただ、一度観てみると、その魅力にはまる方も多い印象です。実は今年、歌舞伎と文楽に触れてみよう、という授業を一つ担当しているのですが、授業内で文楽を紹介したところ、知らなかったけど面白かった、もっと観てみたい!という声も多く頂いています。

人形を使ったお芝居は、世界中にありますが、そのほとんどは子ども向けです。でも文楽の場合は、完全に大人向けのシリアスで濃密なドラマを、あえて人形で演ずる、というのが特色です。(これは世界的にみても異例と言えます)確かに人形なのですが、観ているうちにあたかも生きているように見えてくる、でも人形であることも知っている…という虚実の合間の感覚は他では味わえません。
人形のドラマを物語るのは、台詞やナレーションなどの「語り」を担当する太夫と、太夫の語りを補佐し、全体を支える三味線です。
太夫の力強い語りと太棹の三味線の響き、緻密な人形の動きという三つの要素が舞台上で一つになって、他にはない世界が現れます。
これを一度知ってしまうと、ちょっと病みつきになりますよ…!もしよろしければぜひ!

―そうですよね!文楽は面白いですよね。
お人形より顔の大きなおじさまが、難しい顔をしながら人形を操っているのに、人形しか見えなくなる瞬間がある!という不思議な現象が起きると聞いたことがあります。
6月10日の国文学会総会では、その文楽の魅力を余すところなく、イヤホンガイドの解説もされている高木秀樹先生がお話くださいます。今回は対面でおこないますので、みなさん、ぜひご参加ください!

―「大妻でこういうことをしていきたい!」という抱負があったら教えてください。

大妻は、神保町にも近いので、古本探訪のツアーなどもできたらいいですね。近世とのつながりで言えば、江戸城に近いこともあって、佐野政言の事件のあった場所や、塙保己一の旧居跡など、江戸の人物や出来事に関わる場所もすぐ近くに点在しています。
江戸時代ゆかりの地を歩く「江戸散歩」などもできたらいいな、と夢想しています。

そうしたイベント(?)のようなこととは別に、普段の授業やゼミなどに関しては、学生さんと話している中で、お勧めの本や漫画などを教えてもらえることも多いので、私も色々教えて頂きながら、一緒に「読むこと」を楽しんでいけたらいいなと思います。

―大妻は立地面でとても恵まれていますよね。先生と一緒にめぐれば、日常の風景も旅みたいになりそうですね!その時はぜひまりりんもご一緒させてください!
日々の授業では、すでに学生さんたちと一緒に「読むことの楽しさ」を共有されていらっしゃるようで、嬉しいです。

―さて、長くなってしまいましたが、最後に先生方が返答に困る質問に参りましょう。
休日は、何をしてお過ごしになられますか?

落語や浪曲などの話芸が好きなので、以前はよく寄席などに行っていたのですが、コロナ禍以降は授業準備が圧倒的に増えたり、自分の研究の山場も重なったりで、最近は休日もずっと授業の準備か、研究に関わる仕事(調査や校正など)でいつの間にか終わっていきますね…。
寄席通いのほか、歌舞伎や浄瑠璃、能などを観るのも好きなので、少しずつ観劇なども再開したいのですが。。。

遠出は難しい場合でも、運よく少し時間が空いた時などには、大きめの本屋さんに行って、あれこれ書棚を見ているだけでもだいぶ元気が出ます。あわよくば、近くの喫茶店で買ったばかりの本を読めたりしたら更に幸せですね。

―やはり先生方、授業準備やご自身の研究をされているのですね。(それは、もはや休日ではないようにも思えますね…。お疲れさまです)
そして、心のオアシスはやはり「本を読むこと」なのですね。先生方、共通の幸せ時間なのでしょう。

二回に分けて掲載したほうがよかったのではないかというほどの超大作独占インタビューになってしまいましたが、神林先生の誠実なお人柄が言葉の端々に、にじみ出ていますね。
神林先生、お忙しい中ありがとうございました。
学生のみなさんから積極的に先生との「江戸散歩」を計画し、先生をお誘いしてみるのはいかがでしょう。おすすめの本も、読んでみて、感想を伝えるのもいいですね!

歌舞伎の売れ行きが神林先生宣伝効果で高まった…?ような気がする、日文の営業部長、神林先生でした。

次回は塩野先生です。(新任五十音順でいきます)お楽しみに。

まりりん
(2023.6.7)