Ars longa, vita brevis?

shakespeare-kobayashi2「いっこく堂」という腹話術師が、不可能だったバ行、パ行、マ行の発音を成功させた。舌を上唇の下側につけて離すという。すべて独学だと新聞記事で読んだ。腹話術師は微かに開けた口をほとんど動かさずにことばを発する。そのための特殊な技術だ。今は世界中に広まっているらしい。まねしてみるとそれらしい音が出る。面白い。

この技法を編みだすまでに、彼はかなりの時間を費やしたにちがいない。貴重なのはその時間だ。こちらは言ってみれば、答えを教えてもらっただけである。結果より創意工夫の過程が苦しく、そして楽しい。最小の努力で最大の成果を求める者に真の達成感はないと、ある評論家が説いている。

英語に関係する分野には、認識の快を与えてくれる領域と、身体の快を与えてくれる領域とがある。片方に疲れたらもう一方をと考えて、音読、影読、暗誦やらを楽しんでいる。

芸は長し。されど人生は短かし。いいではないですか。あまり簡単にできない芸のほうがいい。むずかしくて愉しいほど、人生も長くなる。

(英文学科教員 小林昌夫)