日本文学科の13人 第五回 小井土先生と久保先生

みなさん、こんにちは。
まりものまりりんです。
気付けば後期も進み、11月になりました。
現在2人ずつのご紹介で進んでおります「日本文学科の13人」。

鎌倉の方では殺伐とした13人ですが、日本文学科の13人は、仲良しです!
信頼関係ありつつも、互いに厳しい目で学科の未来に対し物事を決め、推し進めていらっしゃる先生方です。ご安心ください。

今月ご紹介いたします先生は、出身校が同じ!という先輩後輩ペア、小井土先生と久保先生です。
同郷のお二人からお話を伺ってまいりました。

日本中世文学をご専門に研究されていらっしゃる小井土先生は、中世の軍記文学を中心に研究されていらっしゃるそうです。『平家物語』や『曾我物語』といった作品の生成過程と本文の変化・流伝の実態解明に関心を持っていらっしゃるとのことです。
中世という激動の時代をたくましく生き抜いた人々の生死観や美意識について考え、文献学・書誌学的な見地から、中世和歌、主に私家集の本文変化にも研究対象を広げていらっしゃると伺っております。
では、質問を始めていきましょう。

―大学時代の卒業論文のテーマについて。お選びになった理由や、またそのテーマから現在の研究にどのように変化していかれたのでしょうか?

卒業論文のテーマは『曽我物語』の研究でした。軍記文学が好きだったのですが、テーマがなかなか決まらなくて。そんなときに、指導教員の先生が、関東を舞台にしてる軍記があるぞと紹介してもらったのが『曽我物語』でした。読んでみたらおもしろかったんですね。また、同じ『曽我物語』なのに真名本と仮名本とではずいぶん違いがあることに興味を持って、諸本を読みくらべてみた、という感じの卒論でした。その後は、諸本研究の手法から『平家物語』や『保元物語』『平治物語』なども手を出しましたが、ここ数年はまた『曽我物語』に戻ってきています。成長がありませんな。現在は、伝本研究から、本文変化の、特に脚色の部分について、何か普遍的なことが見いだせないか考えています。

―『曽我物語』運命の出会いだったのですね。

―先生は、なぜ研究者の道を志したのですか?
大学教授、なんか呑気そうで好きなことやってて楽しそうでいいなぁと思って。でも実際はそうでもなかったです。意外と大変でした。ただ、自分が疑問に思ったことをとことん調べてなんとか解を出す、出せなくとも解に近づく、というのは、性に合ってたかなと思っています。多くの方にお世話になって、今ここにいることができてますね。

―先生方、研究だけでなく様々なお仕事をされていらっしゃいますもんね。まったくもってのんきに好きなことをしているだけ、という状態ではないように水中より拝見しております。お疲れさまです。

―幼少のころ読んでいた好きだった本と、最近読んで面白かったおすすめの本は、何ですか?

小学校の中学年の頃は、江戸川乱歩の『少年探偵 怪人二十面相』(ポプラ社)のシリーズに猛烈にハマってました。おそらく、学校の図書室にあったシリーズは読破したはずです(笑)。その後はわりと長めの歴史小説、司馬遼太郎とか吉川英治とかが好きでした。おもしろくて読んでいたのか、読み終えた時の達成感を味わいたかったのか、今となってはもうわかりませんが、とにかく長編が好きでしたね。最近は、中世史関係のものをおもしろく読んでいますが、みんな仕事がらみなのが残念です。ただ、この夏に読んだ『失われたドーナツの穴を求めて』(芝垣亮介・奥田太郎編、さいはて社)は、仕事とは無関係でおもしろかったですね。ドーナツの穴について、歴史学、経済学、工学、数学、宗教哲学…、各分野の学者が生真面目に論じていくんですよ。もはやこれは哲学です。いい頭の切り替えになりました。ちなみにこの本は、前期に担当した「基礎ゼミⅠ」で、学生に本を紹介してもらう課題をやってもらったのですが、そこで紹介されたものです。本探しで学生を頼るなよって話ですが。(笑)

―先生は長編小説好きだったのですね。江戸川乱歩の『少年探偵』シリーズは愛読者が多いことで有名な作品ですね。図書館にあって手に取りやすいと、次へ次へと読み進めることが楽しくなるものです。
最近読んだ本については、学生さんが授業で紹介した本でしたか!学生さんのおすすめで先生は読んでみようと思われたのですから、だれかのおすすめって大事ですね。タイトルだけでも面白そうですが、先生の紹介文でさらに面白そうだと思いますからね。

―休日はどんな過ごし方をされていらっしゃいますか?

授業準備以外の仕事、というか作業をやってますね。仕事というか趣味というか…。今は、『平家物語評判秘伝抄』という近世の注釈書を翻刻しながら読み進めてます。
あと、最近は、妻と電車で日帰りで行ける低めの山を歩き回っています。低山(ていざん)トラベラーですね。電車で行くのは、歩き終えたあと、当地で一杯やるためです。先日は、歩いた時間よりもお店にいた時間の方が長くて、二人で大いに反省しました。
あとは、剣道の稽古です(これは私だけ)。ずいぶん長いことやっていますが、まだまだ…、まだまだうまくいかないことばかりですね。

―やはり先生方どなたに伺っても休日におこなうことは、お仕事の延長線上…日々学生のため、世の中のためにご尽力ありがとうございます。
低山トラベラー!というものがあるのですね。初めて知りました。低い山であれば、遠足のような気持ちで気軽に楽しめそうで良いですね。奥様とリフレッシュ、何よりです。
剣道はいつからなさっていたのでしたっけ?

剣道は、小学3年生で始めて高校卒業まで、その後、25年のブランクを経て再開し、現在五段です(笑

―小学3年生の時からでしたか。
ブランクあれど、再開して五段まで着々と進まれていらっしゃるお姿には尊敬です。

―先生のご出身の郷土についておすすめの点と、高校時代の思い出をぜひ教えてください。

郷里は群馬県です。自然がたくさんあって、山歩き、キャンプ、川遊び、カヌー、スキー、スノボ、スケート…、四季折々に“海水浴以外の”遊びに事欠きません。でもやはりお薦めは温泉ですかね。スキー行って温泉に浸かる。ゴールデンコースです。草津、四万、水上、川場…、北か西へ向かえば、何かしらありますから。あと、群馬のパスタ屋さんは基本大盛りです。
高校は、男子校でした。今でも同級生からは、お前が女子大で教えてるなんて…、と言葉を飲み込まれます。飲み込まれた言葉はなんだったのか…。高校時代の思い出は、教育上参考になりそうなものがないので黙秘します。とても楽しい高校生活でした。とても楽しかったのですが、大学受験を前にした高3の秋、激しく後悔していたことだけは白状しておきます。

―”海水浴以外”…(笑)
さすが先生、アウトドアの遊びが挙げられるのは先生がいかに自然と共に生きていらっしゃるかを物語っているように感じます。
群馬のパスタが大盛りだったとは、存じませんでした。群馬に行ったら小食の方は気をつけましょう。
高校時代については黙秘ですね。人はいろいろなことをして成長していくのだということで美しく締めくくりたいと思います。
高3の秋の後悔は別として、いつでも生きることを楽しもうとされていらっしゃる先生には学ぶことがたくさんありますね。
学生のみなさんも、ぜひ今できる最大限の学生生活謳歌をなさってください。

小井土先生、どうもありがとうございました!

(研究・教材としての役割を担う)
おもしろグッズコレクター。小井土守敏先生でした。

今回の二番目は、久保先生です。
久保先生は、昨年度2021年に本学にいらっしゃいました。
ご専門は日本中古文学。
『竹取物語』や『源氏物語』を中心に、主に平安時代の物語文学を研究なさっています。
作品のことばや表現を分析し、丁寧に読解することを試みながら、同時に、作品どうしの繋がりや、漢詩文・漢訳仏典の受容について明らかにすることも目指されているとのことです。
物語文学や仮名文学はいかなる背景や基盤によって創造されたのか、そして、どのような主題が継承されていったのか、といった問題を近年考察されていらっしゃると伺いました。

―大学時代の卒業論文のテーマについて教えてください。お選びになった理由や、またそのテーマから現在の研究にどのように変化していかれたのでしょうか?

卒論のテーマは、『源氏物語』の薫の人物造型と続篇世界の特質について、でした。
指導の先生からは、大きな作品、ぶつかって後悔のない作品を選びなさい、と言われたので、それはやっぱり『源氏物語』だろうと思って選びました。
薫を対象にしたのは、主人公であっても、光源氏のように巨大ではないところに惹かれたからだと思います。
暗さや優しさ、いやらしさなどが現代人ぽく感じられて、妙な親近感を抱きました。
薫が道心を抱えた人物として造型されていることや、『源氏物語』の続篇(宇治十帖)の作品世界が仏教と深く関わっていることから、
研究の過程で仏教には早くから関心を抱いていました。
そうしたことが種となって、最近は、物語と仏教との関わりや、平安文学における仏典の受容などに力を注いでいます。

―先生の今年度7月におこなわれた国文学会の例会のご発表では、「竹取物語・仏伝・長恨歌 ―初期物語の創造をめぐって―」という題目にて、物語は違えども、作品と仏教の関わりについてご発表なされていましたね。仏教への関心は、既に卒業論文のころからあったものだったのですね。

―先生は、なぜ研究者を志したのですか?

……けっこう難問です。
やはり、研究や文学について考えることが好きだから、だと思います。
でも、三度の飯より好きか? 何をおいても好きか? と問われると、いやそこまでは……、と答えそうです。
自分の意志で進学したはずなのに研究がつらくて、博士課程では、もうだめだ、やめようと思ったことも何度かあります。
それでも結局またネチネチと研究を始めるのだから、自分ながら不思議でした。
「好きだ」とか「魅力を感じる」とか、そういったきれいで前向きな感情ではなくて、「嫌いになれない」とか「忘れられない」といったような、粘着的な執着があるようです。
その執着を捨てられないのなら、やはり研究者になるほかないなあ、とあきらめを感じたことが、研究者を志すうえで大きかったように思います。
あまりかっこよい説明ができなくて、すみません。

―幼少のころ読んでいた好きだった本と、最近読んで面白かったおすすめの本は、何ですか?

小さかったころに好きだったのは、『ゲゲゲの鬼太郎』やそこに登場する妖怪の本でした。
(『鬼太郎なんでも入門』『妖怪おもしろ大図解』など)
「妖怪だけが住めるアパート」や「隠れ里」といったような、この世界と接しているけれど決して辿り着けないユートピア(?)を想像するのが好きでした。
最近読んで面白かったのは、魚豊『チ。』というマンガです。
地動説の証明を追究する物語なのですが、ドラマをとても巧みに作る作者の技量に感心しました。

―休日はどのようにしてお過ごしになられていらっしゃいますか?

もっぱら娘(幼稚園年長)の相手です。
私は高尚で優雅な時をともに過ごしたいのですが、結局は父子で愚かしく低劣ことばかりしています。

―愚かしいなんてとんでもない‼幼稚園生のお嬢様と、穏やかに遊んでいらっしゃる先生の平和な休日を思い浮かべると、心が温まります。


本以外を希望したら絵巻が出てきてしまった…。

―先生は、小井土先生と同じ高校と伺いましたが、郷土についておすすめの点と、高校時代の思い出について、教えてください。

群馬県の伊勢崎市(細かくいうと、旧佐波郡境町)が出身地です。
とにかく平野が広がっているところが魅力だと思っています。東京のような高い建物がありませんので、青空も広く感じられます。
その青空のもとで田んぼと畑と白い工業団地が遠くまで続いている光景は、殺風景というべきでお勧めとはいいがたいのですが、私には実に落ち着く風景です。
なお、郷土の食べ物でお勧めなのは何といっても「焼きまんじゅう」です。
高校は公立の男子校でした。
たくさん本を読んでいて教養のある人、自分など比較にもならないような頭のよい人に出会えたことが、大きな財産です。
焦がれるように教養を求めたのは、何よりも高校時代だったように思います。
なお、高3のときに、先に述べた「自分など比較にもならないような頭のよい人」と組んで高校生クイズ選手権に臨んだのですが、
その彼が第1問の発表後に熱中症で脱落したのは、けっこう好きな思い出です(結果はもちろん予選敗退)。

―東京の高層ビル群でも、群馬県の広々とした景色も、そこに生まれ、そこで育った者にとっては、心落ち着く風景となるのでしょう。
先生の心の原風景を見ながら、焼きまんじゅうを食べるため、いつか群馬県に訪れてみたいものです。

高校生クイズに参加したことがあるのですね!
頼りにしていた仲間の熱中症は衝撃でしたね(笑

コロナ対策用アルコールタオルの詰め替え用の希望に対し「配給をお願いいたします!」と真面目な顔でお申し出になられ、日文・国文共同研究室、「伝説の一言集」1ページを飾った、久保堅一先生でした。
誠実さに満ちたお人柄から漏れ出る、おもしろ発言に今後も期待大です。

久保先生、ありがとうございました。

みなさん、次回もお楽しみに!