企画の経緯

2019年、大妻女子大学文学部英文学科は、英語英文学科に衣替えしました。この名称変更を全国にPRするため、同学科は、<全国高校生英語再生ことわざコンテスト>を企画しました。この催しは、2019年から2022年にわたり、毎年実施されました。

企画の契機は、Litovkina (2018)”Teaching Proverbs and Anti-Proverbs”です。彼女は、第2言語として英語を学ぶハンガリーの大学生に、<再生ことわざ>の制作を課しました。同書には、彼女の受講生の作品が200編以上収録されています。ただし、その成果は玉石混交です。もし全国規模で企画を展開すれば、たとえ高校生でも、それに比肩する作品を制作することは十分可能であろう、と予測しました。結果は、予想をはるかに上回りました。

実施時期を限定したのは、企画の実態と成果を、速やかに社会に紹介するためです。短期集中でコンテストを実施した後、一気呵成に結果を公開する、という方針を立てました。4年間あれば、質量ともに、公開に値する作品が集まるであろう、と想定しました。結果は、予想通りになりました。

運営は、学科内の有志が結成したAPPT(Anti-Proverb Project Team)が行いました。予算案の作成、年間スケジュールの設定、新聞社やweb会社とのやり取り、審査基準の設定、ハンドブックの校正、外部からの様々な問い合わせに対する回答など、様々な業務はAPPTが一手に引き受けました。作業の責任は、APPTに任されていたので、突発的な事態にも、臨機迅速に対応することができました。

企画は、すべてネット上で運営しました。募集作品は、少ない文字情報から成り立つことわざです。さらに、最近の高校生はITに習熟しています。コンテストとネットとの相性が良いことは、事前に十分予想できました。学科HPに特設ウェブサイトを設置し、必要な情報を掲載しました。専用のメールアドレスを設定し、様々な問い合わせに対応しました。

何分、前代未聞の試みなので、蓋を開ける前は、「果たして応募者があるのか」という懸念がよぎりました。もし、初年度、あまりに高校生からの応募者が少ない場合、大学生あるいは社会人にも枠を広げることも想定しました。しかし、不安は杞憂に終わりました。その実態は、以下のとおりです。

年度 応募数 優秀賞数 入賞数 受賞率*
2019 88 1 8 10%
2020 701 0 7 1%
2021 292 1 6 2%
2022 284 3 8 4%
総計 1365 5 29 3%

*受賞率=(優秀賞数+入賞数)÷応募数×100

手探りで始めたコンテストなので、起こりうる事態を、事前にすべて予測することはできません。運営の最中、試行錯誤しながら対処したこともあります。

  1. <名称> この企画は、初年度、<創作ことわざ>という名称で開始しました。しかし、この呼称は、「全く新しいことわざを募集する」と誤解されるおそれがあります。それは、この度の企画の意図と異なるだけでなく、別の団体がすでにその企画をその名称で実施していることも判明しました。そのため、実態を正確に表す<再生ことわざ>という名称を新たに案出し、2年目から使い始めました。
  2. <個人情報> 企画を立ち上げる際、web会社の<Heartiness>が、ペンネームで応募する方式を提案しました。個人情報を保護するには賢明な方策であると判断し、その方式を採択しました。これにより、審査の途中、並びに、審査結果の公表の際、応募者の匿名性を保持することができました。さらに、作品制作と同様、投稿者が自らのペンネームを創作する楽しみを味わうことを期待しました。
  3. <サーバーダウン> 募集開始直後、外部接続ができなくなる事態が起こりました。高校での授業中、受講生が集中的に当サイトにアクセスをしたため、サーバーが過負荷になったのが原因と思われます。急遽、リソースを増強する対策を講じました。それ以降、学内の<システム管理グループ>にコンテストのスケジュールを予告し、募集期間と審査結果発表の年2回、リソースを増強しました。それ以降、サーバーダウンの現象は解消されました。
  4. <グーグルフォーム> 初年度は、Wordのフォーマットに、応募者が必要事項を記入し、指定のアドレスに送信する形式を取りました。しかし、この方式だと、Word の入力情報を、評価用紙のExcelにコピーペーストしなければなりません。<Heartiness>の助言に従い、次年度からグーグルフォームを導入しました。グーグルフォームは、入力情報を自動的にExcel変換するので、事後処理が格段にはかどりました。
  5. <広告媒体> 初年度は、<朝日中高生新聞><Asahi Weekly><登竜門><公募ガイドON LINE>に告知を掲載しました。次年度からは、<読売中高生新聞>と<高校生新聞ON LINE >を追加しました。募集後のアンケート結果を見ると、応募者は、学校の先生の紹介でこの企画を知った割合が圧倒的でした。つまり、これらの紙媒体・電子媒体は、応募者よりも、教員への告知の役割を果たしていたと考えられます。
  6. <外注> 企画のPRのため、2019年度と2020年度は、チラシとポスター、2021年度と2022年度は、リーフレットを作成しました。広告媒体の変更は、コロナにより、高校生が大学・高校で資料を閲覧しにくくなる事態に起因します。資料を、新聞社・高校などに郵送するため、初年度は、学科内で袋詰め作業をしました。しかし、次第に発送部数が増大し、学科内での処理が困難になりました。この問題を解決するため、2020年度から、媒体の印刷に与っていた<報光社>に、郵送作業を委嘱しました。
  7. <チェック体制> 作品の独創性を確認するため、コンテストでは、投稿に先立ち、「ネットなどを利用し、同一作品が流布していないか、確かめるように」という項目を設定しました。制作者が空欄にチェックを入れることにより、自主的な確認を要請しました。しかし、これは万全の態勢とは言えませんでした。なぜなら、投稿作品を再チェックすると、すでに世の中に出回っている作品がいくつか検出されたからです。これは募集要項に抵触するので、選考対象から除外しました。
  8. <剽窃ツール> コンテストである以上、投稿作品と同一作品が、流布していないかを調査するのは、主催者側の責任です。市販されている剽窃チェックツールも、幾つか試しました。しかし、どのツールも作動しませんでした。なぜなら、論文や小説と異なり、ことわざはあまりにも語数が少ないため、ツールの入力条件を満たさないからです。結局、入賞候補作品が絞られてきた審査段階で、既存の再生ことわざ辞典と照合するとともに、手作業でネット上を検索しました。
  9. <宿命> 世の中には、キャッチコピー・標語・俳句など、少ない語数の作品を募るコンテストがあります。これらの作品は、通例、電子媒体・紙媒体に掲載されるため、公開性があります。そのため、比較的チェック機能が働きやすいコンテストです。一方、再生ことわざは、電子媒体・紙媒体のみに出現するわけではありません。トイレ・壁・看板・Tシャツ・カード・マグカップ・パネルなど、多様な媒体に出現するので、ネット上で文字検索するのは困難です。(ネットの画像欄に掲載されることもあります。)再生ことわざは、ウィルスのように、日々刻々と増殖し、その出現は予測できません。どれほど綿密なチェック体制を構築しようと、この世に現れた全作品を完璧に網羅し把握することは不可能です。これは、再生ことわざコンテストが背負う宿命です。