選考結果(2021年度)

審査結果

優秀賞 1篇

Pearl(千葉県立佐倉高等学校・3年)

入賞 6編

Erika(生光学園高等学校・1年)
Nodoka(大妻嵐山高等学校・2年)
Rkau(国際基督教大学高等学校・2年)
Shiho(筑波大学附属高等学校・2年)
Taiyo(ヨコハマインターナショナルスクール・10年)
yanoyu(東京都立桜修館中等教育学校・2年)
(*学校名は、略称で記した場合があります。)

総評

この程、<全国高校生英語再生ことわざコンテスト2021>を無事終了することができました。今回は、海外も含め、全国から292編の作品が寄せられました。コロナ禍の折、貴重な時間を割いて応募された方々に、心から感謝と御礼を申し上げます。今回は、優秀賞1篇、入賞6編を選定しました。受賞された方々には、心よりお祝い申し上げます。

ちなみに、10編以上の作品を輩出した学校は、大妻嵐山高等学校(51編・埼玉)、城北埼玉高等学校(45編・埼玉)、山城高等学校(35編・京都)、聖霊高等学校(28編・愛知)、誠信高等学校(28編・愛知)、東京農大第三高等学校(15編・埼玉)、沼津高等学校(14編・静岡)の7校です。

アンケートによれば、「先生からの情報」「授業の一環」によってこの企画を知った応募者は、全体の87%に及びました。昨年同様、ご賛同とご支援をいただいた高等学校の先生方に、拝謝申し上げます。

ところで、建築家の谷尻誠とカーデザイナーの前田育夫は、次の対談をしています(前田育夫.2018.『デザインが日本を変える』光文社)。

谷尻:僕らはよく「古いは新しい」と言っています。クリエーターは、イノベーティブな精神を持っていたいので、常に新しいものを創りたいと思う。でもそれは、「古い」を捨てるわけじゃなく、「古い」の中に新しさを作るきっかけは必ずあるはず。

前田:その視点は大事だと思います。新しいだけのものって、簡単に作れますからね。未来はすべて過去につながっています。地続きの部分を踏まえたうえで次の一歩を踏み出さないと、真に本質的なものは作れない。

二人の主張は、創造が伝統に立脚する点で、再生ことわざの極意と完全に符合します。今秋も、<全国高校生英語再生ことわざコンテスト2022>を挙行します。6月に、当ウェブサイトに応募要項を掲示します。力作を心待ちにしております。

2022年2月
大妻女子大学文学部英語英文学科
APPT (Anti-Proverb Project Team)

選評

ことわざを再生する際、置き換え前後の単語同士、あるいは、作品内の単語同士が、韻を踏むようにするのは、制作の第一歩です。今回のコンテストにおいて、頭韻や脚韻に配慮した作品が少なからず見られたことは、喜ばしいことです。

しかし、その先に2つの関門が待ち構えていることを、忘れてはなりません。第一の関門は文法。韻を踏むことに気を取られるあまり、構文が破綻しては、元も子もありません。第二の関門は意味。たとえ韻を踏んでいても、使用する語彙が、元の語彙の意味と近すぎると、同工異曲に陥ります。

音声上の工夫を凝らすだけでなく、文法規則に合致し、かつ、個性的で斬新な表現をめざしてください。

〇 優秀賞(1篇)

今回の受賞作品は、上記で記した3つの条件(音声面の工夫・文法規則の順守・元の意味からの飛躍)を満足します。特に、care/glareの選択は秀逸。両者は、脚韻/-er/を踏むだけでなく、語頭の子音が、共に軟口蓋音/k,g/です。その口調は滑らかで、現行の表現を凌駕します。care/glareは、他者に対する両極的な態度を表し、制作者は座視・敵視よりも関与・配慮を唱道します。作品に込められた技巧と主張は評価に値し、優秀賞を贈呈します。制作者には、3月中に賞状と賞品(図書カード20,000円分)を送付します。

ペンネーム Pearl
高等学校名 千葉県立佐倉高等学校
学年 3年
既存のことわざ Learn to walk before you run.
再生ことわざ Learn to care before you glare.
工夫した所 変えた単語2つの韻を揃えて、意味も通るようにした。
伝えたい意味 相手をよく知らないまま傷つけ、敵視するよりも、その人の気持ちにまず寄り添い、本当のことを知ることが大切だという、現代のインターネットでも誹謗中傷の問題を表している。
母語話者の講評 This entry is outstanding because it improves on the original. Its strong point is the assonance of the two keywords. This created proverb calls us to have compassion, which is a desired human quality. It is easy to stare and glare, but it takes more effort to care and be mindful of others. The achievement of this crafted proverb should not end with this contest. It deserves to be seen and better known, so I will make every effort to publicize this entry from now.

〇 入賞 (6編)

新型コロナウィルスを筆頭に、SNS・SDGs・差別・学校生活をテーマにした作品が目立ちました。応募作品を総攬すると、パンクチュエーションの誤りが目につきます。ピリオド・コンマ・コロン・セミコロンなどは、表現の基礎なので気を配りましょう。また、応募規定を逸脱した作品も幾つかありました。投稿前に、応募要項を熟読してください。

今回のコンテストでは、6編の作品が入賞となりました。それぞれに創意工夫の跡がみられましたが、詳細は、母語話者の講評を参照してください。入賞した方々へは、3月中に、賞状と賞品(図書カード10,000円分)を送付します。以下の作品は、ペンネームのアルファベット順に配列されています。また、応募者の文言は、一部編集した場合があります。

ペンネーム Erika
高等学校名 生光学園高等学校
学年 1年
既存のことわざ Better safe than sorry.
再生ことわざ Better state than worry.
工夫した所 諺の形やリズムを保ったまま、safeとstate、sorryとworryという2つの部分を元の言葉の部分と韻を踏むようにした。また、sayではなく自分の意見を話す、主張するという意味であるstateを使うことで何を伝えたいのかを明確にした。
伝えたい意味 日本人は一般的に、多数派の中で目立って仲間外れにされ、他人から非難されることを恐れて空気を読み、自分の意見を言わないことで知られている。その結果社会は一見協調性があって平和に見えるが、今の状態からの改善は起こらない。しかし今はコロナ禍でより多くの労働者の、特に女性や若い世代が解雇や雇い止めに遭って失業している。自粛生活によるストレスなどのために子どもが虐待されている。そのようなことが起きているのにどうして世間から仲間外れになることを恐れてそのような弱者の声を無視できない。
もしかしたら無意識のうちに自分の主張を隠して周りに合わせている人がいるかもしれない。しかしそのようなことはしなくていいと、私は強く信じる。その一人一人の意見や主張が周りを動かし、さらに時には政治にも反映され、結果的に社会をより良い方向に改善していくから。非難されることを心配して何も言わないことより自分の意見を周りに主張して共有する方が、社会にとって必要なのではないだろうか。
母語話者の講評 This entry is a misunderstanding of the original proverb, which is short for the comparative statement, “It’s better to be safe than to be sorry”. The original features two adjectives. “State” as a verb does not convey a sensible action over worry.
ペンネーム Nodoka
高等学校名 大妻嵐山高等学校
学年 2年
既存のことわざ Strike while the iron is hot.
再生ことわざ Strive while the virus is out.
工夫した所 strikeとstrive、ironとvirus、hotとoutの韻を揃えた。
伝えたい意味 現在、新型コロナウイルスにより行動が制限され収束の兆しが見えず、やる気や希望を失い何かを諦めてしまいそうになりがちである。だが、小康状態の今こそ懸命に努力しコロナ禍という困難を乗り越えるべきではないだろうか。「好機を逃すな」という元の意味の通り、「コロナ禍でも今しかできないこと、目標のためにやるべきことを実践し励みたい」という思いを込めた。
母語話者の講評 This entry is expertly constructed and fits the current concern with covid-19 with its nice use of assonance. Moreover, this created proverb encourages us to not only stay safe and endure, but to keep moving forward in our lives while living in this present danger.
ペンネーム Rkau
高等学校名 国際基督教大学高等学校
学年 2年
既存のことわざ A picture is worth a thousand words
再生ことわざ Love is worth a thousand likes
工夫した所 名詞のA pictureをLoveに、wordsをlikesに「置き換え」した。元の名詞を抽象化することにより、より広い意味で、警句を作り出した。そして、「置き換え」をした2単語、LoveとLikeという言葉はよく愛と恋という対立で用いられるものである。さらに、現行のことわざのworth a thousandという誇張をそのまま活かすためにLikeをLikesという複数形にし、同じような意味合いになるようにした。
伝えたい意味 直訳だと、『「愛」は、1000の「好き」の価値がある』となる。愛に代われるものはないことを示すためだ。恋人との愛や家族の愛は1000人に好きだと言われる価値があることを言っているが、それ以上の価値であること、また、価値が数字では測りきれないことも伝えようとしている。それは、1000という数字を使ってことの大きさ誇張しているからだ。実際、現行のことわざも1000文字ぴったりの価値があることを伝えたいわけではない。また、この作品には隠喩もあって、SNSでの「いいね」という観点からも言えることがある。承認欲求を満たすために「いいね」をもらうのはいいが、1000の「いいね」と本物の愛は比べ物にならないことを強く伝えようとしている。特に高校生で、必死にSNSで「いいね」をもらおうとしている人たちに“身近にもっと大切なもの、あるんじゃない?”と問いたい。
母語話者の講評 This entry suggests that love can be quantified. But love cannot be regarded on the same plane as a like. In the SNS metaverse, a like is ephemeral, which is a mere nod and can be easily dismissed. But a love can become dangerous if ignored.
ペンネーム Shiho
高等学校名 筑波大学附属高等学校
学年 2年
既存のことわざ Necessity is the mother of invention.
再生ことわざ Sustainability is the mother of the next generation.
工夫した所 元のことわざのnecessity, inventionとそれぞれ脚韻を踏む、sustainability, generationという言葉を選び、ことわざのリズムを崩さないように工夫した。
伝えたい意味 国連がSDGsを提唱しているように、現代を生きる私たちには、誰もが暮らしやすい持続可能な社会の構築が求められている。次世代の地球は今の私たちの行動にかかっている、という意味を込めた。
母語話者の講評 “Sustainability” is the buzzword in SDGs. But this word is an euphenism for a comfortable consumption lifestyle that still destroys the environment. What we really need is that survival is the mother of this generation.
ペンネーム Taiyo
高等学校名 ヨコハマインターナショナルスクール
学年 その他
(10年生)
既存のことわざ Faith will move mountains.
再生ことわざ Faith will move minorities.
工夫した所 頭の文字は変えずに表現しました。
伝えたい意味 自分自身の信念を貫くことは、人生の困難を克服する助けになります。現代においては、生きにくさを感じてきた少数派の皆さんが、勇気を持って声をあげることの出来る社会が可能になりつつあります。彼らの信念が認められ、すべての人が住みやすい社会が作られることを願って、このことわざを作りました。
母語話者の講評 What “faith” is intended in this entry is unclear. The original harkens to an unseen hope that overcomes obstacles. Minorities can put their faith in a future change. But in this entry, what faith is involved here? What minorities?
ペンネーム yanoyu
高等学校名 都立桜修館中等教育学校
学年 2年
既存のことわざ Brevity is the soul of wit.
再生ことわざ Solitude is the soul of sparks.
工夫した所 全体を崩し過ぎることのないように注意を払い、また、「solitude」と「soul」と「sparks」で頭韻を踏み読み上げたときのリズムの良さを意識した。
伝えたい意味 近年、インターネットの普及によりいつでも他人と繋がっていることが可能となった。しかし、この変化により、一人で思索にふける時間が減り、また他人の意見にふれることが多くなったために、発想の多様性が失われ斬新なアイデアが生まれにくくなっているという意見がある。現状を見直すきっかけになればよいと考え、この再生ことわざを作成した。
母語話者の講評 This seems to be a witty alliteration entry. But its meaning is implausible. Wit shows glimmers of the soul at work.
Sparks showkindling which have no relation to soul. Also, the author disregarded the rule that pen names should begin with a capital letter.