選考結果(2020年度)

審査結果

入賞 7編

Fireball(西大和学園高等学校・2年)
Hishy(海城高等学校・1年)
Nozomi(渋谷教育学園幕張高等学校・2年)
Nrrn(渋谷教育学園幕張高等学校・2年)
Peridot(渋谷教育学園幕張高等学校・2年)
Tomato(渋谷教育学園幕張高等学校・2年)
Yui(聖霊高等学校・2年)
(*学校名は、略称で記した場合があります。)

総評

この程、<全国高校生英語再生ことわざコンテスト2020>を無事終了することができました。有難いことに、海外も含め、全国から701編もの作品が寄せられました。昨年は88編でしたから、飛躍的な増加です。投稿された皆様に、心から感謝と御礼を申し上げます。

アンケートによれば、授業の一環として応募した方々は、全体の8割に及びました。ご支援をいただいた高等学校の先生方に、拝謝申し上げます。ちなみに、20編以上の作品を輩出した学校は、渋谷教育学園幕張高等学校(235編・千葉)、海城高等学校(199編・東京)、聖霊高等学校(62編・愛知)、花園高等学校(59編・京都)、津和野高等学校(25編・島根)、大妻嵐山高等学校(23編・埼玉)の6校です。

昨年のコンテストでは、優秀賞1編、入賞8編を選出しました。今回も同様の内訳を予定しておりましたが、最終的に、入賞7編を選定しました。入賞された方々には、心より、お祝い申し上げます。

磁器デザイナー、森正洋の作品に<G型醤油さし>があります。象の鼻の形をした注ぎ口を持つ白い器は、どこかで目にしたことがあるでしょう。あのフォルムは、一朝一夕に生まれたわけではありません。「液だれしない、注ぐ量を調節できる、狙ったところに差す」という高い目標を達成するため、幾度となく実験と改良がなされました。その結果、機能性と造形美が融合した製品が完成したのです。

試行錯誤の繰り返しは、再生ことわざにおいても必要です。既存のことわざは、それ自体、完璧な言語表現です。その一部を改変すると、たいていどこかに歪が生じます。そのままでは言語表現として未成熟なので、形式と内容が調和するように、推敲を重ねなくてはなりません。応募者の方々は、<G型醤油さし>のひそみに倣い、作品を錬磨することを期待します。

今秋も、<全国高校生英語再生ことわざコンテスト2021>を開催します。この6月には、このウェブサイトに応募要項を掲示する予定です。ことわざの再生とは、伝統的文化遺産に基づく創造的言語活動です。彫心鏤骨の逸品を心待ちにしております。

2021年2月
大妻女子大学文学部英語英文学科
APPT (Anti-Proverb Project Team)

選評

Go to bed late,
Stay very small.
Go to bed early,
Grow very tall.

Mother Goose は、英語圏において、古くから口承によって伝えられてきた童謡です。子守歌・遊戯唄・呪文・なぞなぞ・物売口上・早口言葉など、様々な歌から構成されています。英語の母語話者は、乳幼児のころから大人になるまで、これを聴き、唱え、歌い、これと共に遊び、戯れ、暮らしてきました。この童謡は、彼らに血肉化していると言ってよいでしょう。

Mother Gooseは、様々な、そして、膨大な修辞の宝庫です。上記の例では、go/grow と stay/small が頭韻(語頭の子音が同一)を踏んでいます。また、small/tall が脚韻(語末の母音+子音が同一)を踏んでいます。さらに、bed/very, go/grow, late/stay が母音押韻(語中の母音が同一)を踏んでいます。

修辞は、音声だけでなく意味の領域にも及びます。上の例では、副詞late/earlyと形容詞small/tall が、反義の関係です。また、stayは状態動詞ですが、grow は状態変化動詞であり、対立的に使われています。

第2言語として英語を学ぶ場合、修辞と対峙する機会は少ないかもしれません。しかし、時には、このような韻文に接しては如何でしょうか。というのも、修辞の理解は、(歌を聴く、詩を読むなどの)受動的言語活動を行う場合だけでなく、(歌を歌う、キャッチフレーズを創るなどの)能動的言語活動を行う場合において、不可欠だからです。

修辞的な表現は、洗練されており、品があり、お洒落です。ことわざは修辞を駆使しますが、今回の投稿作品は、修辞の配慮が欠けているものが目立ちました。詳しくは、このウェブサイトに収録されている<英語再生ことわざハンドブック>所収、「ことわざと意味」および「ことわざと音声」の項目を参照してください。

〇 入賞 (7篇)

時節柄、多くの作品が、アメリカ大統領選挙と新型コロナウイルスをテーマに取り上げました。また、昨年同様、SNSへの危惧を示す傾向も顕著でした。総評でも述べたように、今回のコンテストでは、7編の作品が入賞となりました。それぞれに創意工夫の跡がみられましたが、詳細は、母語話者の講評を参照してください。特に、Fireball さんは、昨年に引き続き、2年連続入賞の快挙を達成されました。天晴というほかありません。入賞した方々へは、3月中に、賞状と賞品(図書カード10,000円分)を送付いたします。なお、以下に掲載した作品は、ペンネームのアルファベット順に配列されています。また、応募者の文言は、一部編集した場合があります。

ペンネーム Fireball
高等学校名 西大和学園高等学校
学年 2年
既存のことわざ it’s no use crying over spilled milk
再生ことわざ It’s no use crying over spoiled earth
工夫した所 spoiled /spɔɪld/ とspilled /spɪld/ という、発音が/ɔ/の音以外同じである単語を入れ替えるところを工夫しました。
伝えたい意味 今日、様々な環境問題が議論されていますが、それは生活に直接関係するものでない事が多く、当事者意識を持つの簡単ではありません。ですが、環境問題について真剣に取り組まなければならない時がもう来ています。だから、このことわざで、「気づいたときは手遅れだったとならないよう、環境問題について考える必要がある」と思うきっかけになってくれたら嬉しいです。
母語話者の講評 The keyword substitution from "spilled milk" to "spoiled earth" shows awareness of how humans have ruined the soil, as in Chernobyl and Fukushima. But this anti-proverb risks dismissing the ignominy of such tragedies. We should cry over and remember such horrors so that they are not repeated. "it’s", as the first word of this entry, is not capitalized, which is an avoidable mistake. Also, the period is omitted at the end of the sentence, which is another avoidable mistake.
ペンネーム Hishy
高等学校名 海城高等学校
学年 1年
既存のことわざ Spare the rod and spoil the child
再生ことわざ Spare a vote and spoil the state
工夫した所 元のことわざがspareとspoilの頭韻を、そしてrodとchild脚韻を踏んでいるのを活かせるようにvoteとstateが脚韻を踏むように言葉を選びました。the voteにするかa voteにするか大変迷ったのですが、一つ一つの票が積み重なっているようなニュアンスを持つa voteを採用しました。
伝えたい意味 「1票を惜しめば、国を破綻させる。」昨今のアメリカ大統領選挙から発想を得ました。僅差での決着だったことから、1票の重要性を再確認させられる選挙だと感じました。国を左右するのは国の筆頭である政治家だけではなく、むしろ主権者である人民の総意なので、積極的に投票し、自分の意思を表明するのはとても大切だと私は思いました。
母語話者の講評 This anti-proverb shows a nice recast of two keywords "rod" and "child" as "vote" and "state". However, "spare a vote" with an indefinite article creates unintended ambiguity, since "spare" as a verb has two differing meanings. On one hand, "spare a vote" could mean "choose not to vote". But "spare" could also imply urging to vote again, which would be a crime, and spoil a state’s integrity. Also, the period is omitted at the end of the sentence, which is an avoidable mistake.
ペンネーム Nozomi
高等学校名 渋谷教育学園幕張高等学校
学年 2年
既存のことわざ After a storm comes a calm
再生ことわざ After arms comes qualms
工夫した所 元のことわざがシンプルなので、イメージが離れすぎないように似た発音の韻を踏んだ。口に出したときのリズムの良さを意識した。
伝えたい意味 武力を持つことや戦闘は、武力行使する側には良心の呵責を、民衆には不安をというように、後にマイナスの感情をもたらすことを表した。日常生活でも、心をかたくなにし他人を傷つけると自他共につらい思いをするという意味で使えるのではないか。
母語話者の講評 The two word substitutions from "a storm" and "calm", to "arms" and "qualms", with assonance, make a nifty anti-proverb. But, it is not clear what "qualms" actually are as a reaction to "arms". Are they regrets of promoting violence after purchasing firearms? Or regrets of wasting money after buying them? Also, the period is omitted at the end of the sentence, which is an avoidable mistake.
ペンネーム Nrrn
高等学校名 渋谷教育学園幕張高等学校
学年 2年
既存のことわざ A man is known by the company he keeps.
再生ことわざ A politician is known by the crisis he faces.
工夫した所 元のことわざの形をあまり変えず、意味が伝わりやすいように書いた。
伝えたい意味 現在、新型コロナウイルスによって国として対策が求められる中で、かつてはあまり意識されることのなかった各国の政策の違いやその影響が明らかになっている。このような重大な危機に瀕し、政治家それぞれのとる行動によって政治家自身の善し悪しが判断されるという今の世の中の様子をことわざにした。
母語話者の講評 This anti-proverb shows understanding of what a "politician" is expected to address, as it substitutes "company" to "crisis" as an alliteration and "keeps" to "faces". However, a politician is usually better known by the crisis he solves. Many fade into ignominy when they cannot do more than face theirs.
ペンネーム Peridot
高等学校名 渋谷教育学園幕張高等学校
学年 2年
既存のことわざ Everything comes to him who waits.
再生ことわざ Nothing comes to him who sways.
工夫した所 waitsとswaysで韻を揃えた。また、everythingとnothingで対応させ反対の意味にした。
伝えたい意味 意思が弱く、自分で決断できないために周囲の間を揺れ動いている人は、何も得ることができない。
母語話者の講評 This anti-proverb features nice word substitutions of "everything" as the opposite to "nothing" and "waits" to "sways". However, "sways" does not imply intention, only movement. "Wavers" conveys the indecisiveness better and the word would have provided an alliterative link to the original.
ペンネーム Tomato
高等学校名 渋谷教育学園幕張高等学校
学年 2年
既存のことわざ Better to light one candle than to curse the darkness
再生ことわざ Better to vote for one candidate than to curse the regime
工夫した所 アメリカで大統領選挙を行っていたので、それになぞらえて作りました。なるべく元のことわざを使うように作りました。
伝えたい意味 ネットで今の政権を批判するだけでは何も意味がなく、投票へ行った方が自分の意志を伝えられるということです。
母語話者の講評 This anti-proverb provides deft changes from "light" to "vote", "candle" to "candidate" as an alliteration, from "darkness" to "regime". But anti-proverbs that try to tackle politics, end up too often as polemics. If the regime has only one candidate, there is no sense in voting. It is more honorable to curse the regime. Also, the period is omitted at the end of the sentence, which is an avoidable mistake.
ペンネーム Yui
高等学校名 聖霊高等学校
学年 2年
既存のことわざ Good seed makes good crop.
再生ことわざ Good education makes good nation.
工夫した所 educationとnationのtionの音が脚韻になっている。
伝えたい意味 質の良い教育が次の世代を担う子どもたちを精神的、肉体的に成長させます。そして、教育を受けた子どもたちが教育や医療などの分野で活躍することができるでしょう。つまり、質の高い教育の場をつくることが、その国の成長に繋がるということです。SDGsにも「質の高い教育をみんなに」という目標がありますが、まだその目標は達成していません。世界中の子どもたちが、無償で質の高い教育を平等に受けることのできる世界になって欲しいです。
母語話者の講評 This anti-proverb shows insightful word substitutions, from "seed" to "education" and "crop" to "nation". Also, it shows awareness of how nurture can lead to a favorable result. However, the notion of "goodness" depends on the beholder. An ideologue could argue that a ‘good’ education is one that moulds young people’s minds into obedient followers for a nation. Also, the noun "nation" really needs an article.